もう一度そう主張するが、彼は頑として聞かない。
「足怪我してるのにそのまま帰す訳ないだろ?」
「でも……こんな夜に……」
玄関前でそんなやり取りを繰り返していたら、玄関のドアがゆっくりと開いた。
中から五十代くらいの背の高い外国人の男性が現れると、一条さんは親しげに声をかけた。
「エド、お湯と絆創膏用意して」
私たちを見てもそんなに驚く事はなく、そのエドと呼ばれた男性は冷静に対応する。
誰だろうと不思議に思っていると、一条さんがまた説明してくれた。
「エドはうちの執事なんだ」
「……執事って日本にも本当にいるんだ」 
思ってることがそのまま口に出てしまった。
昔、玲子に誘われて冷やかしで執事喫茶に行った事はあるけど一条さんには言えない。
そんな話をしたら絶対彼は大笑いしそうだ。
「うちの母さんは何も出来ないお嬢さまだったから、親父が雇ったんだ。これから紹介するメアリと夫婦でこの家の管理をしてもらってる」