こんな家に住めたらどんなにいいだろう。憧れる。
一条さんは高層マンションに住んでると勝手に思い込んでいたから意外だった。
私が驚いていると、また私の表情を読んだのか一条さんがクスッと笑った。
「イメージと違う？親父が母さんのために設計した家でね、俺はここで育った」　
そう説明する一条さんの表情は、とても幸せそうだった。
きっと、家族との思い出の詰まった大切な家なのだろう。
聞けば一条さんのお母さまは、うちの会社の社長の姉らしい。
そのお母さまに彼のお父さまが一目惚れし、彼女が住みたくなるような家を設計したそうだ。
彼のお母さまはかなりのじゃじゃ馬で、お父さまも口説き落とすのに相当苦労したとか。
「佐藤さん、お疲れさま、また明日」
一条さんは佐藤さんにお礼を言うと、私を抱き上げたまま玄関へ向かう。
結局、恥ずかしくて運転手の佐藤さんに何も言えなかった。
「い、一条さん、本当に私帰りますから」