身体がちょっと熱くなったが、緊張は全然解けない。
だが、ようやく一条さんを見つけた。
彼は外国人の初老の男性と談笑している。
やはりモデルのように非の打ち所のない完璧な容姿は目立つ。
ただそこにいるだけなのに魅せられる。
一条さんは今日はタキシードを着ていて、いつもの十倍増しで素敵だった。
彼の元に行こうとして、突然足が止まる。
自分の顔の表情が一瞬にして凍ってしまったのが自分でもわかった。
一条さんの隣には、綺麗な金髪の女性がいた。
深紅のドレスを着たその女性は、妖艶な笑みを浮かべ、彼の腕を掴んでいる。
彼女が杏樹さんが言っていたロシア駐日大使のお嬢さんだろうか。
一条さんと並ぶとすごくお似合いだ。
悔しいけど絵になる。
やっぱり私では彼には不釣り合いだ。
あのふたりの間に割って入るなんてとても出来ない。
「ハハッ、一体なにを期待してたんだろう」
乾いた笑いが込み上げてくる。
一条さんが私に気づいて、〝好きだ〟とでも言ってくれると思った?