でも、彼がずっと海外営業部にいるわけじゃない。
今年の十月の人事で常務に昇進予定と佐久間さんが言っていた。
僕もずっとここにいるわけじゃないけど、あと五年はここで頑張るつもりだ。 
成長しなければならない。
一条さんに追いつきたい。
そして、追い越したいーー。
あの大きな後ろ姿を見てるだけじゃ駄目だ。
「一条さんがうらやましいですよ。何でいつもそんなに余裕綽々でいられるんですか?まだ三十歳ですよね?仙人みたいに達観してませんか?」
「俺の場合は、家族で苦労してるんだよ。おかげで何があっても動じなくなった」
一条さんは苦笑する。
そう言えば、社長の第二秘書がお姉さんだった。
「秘書の藤宮さんが確かお姉さんでしたね」 
女優のように堂々としていてキレイな人だ。
彼女が入ってから秘書室の秘書の先輩方が大人しくなった。
「そう。その姉よりもっと厄介なのが、化け物みたいに年齢不詳な母」
「……なんか凄そうですね」