「それより何ボーっとしてんの。杉本のこの企画書良く出来てた。で、さっきの話に戻るけど、お前は部下を見捨てるの?」
彼の声はソフトだったけど、目は厳しかった。
「お前の初めての部下だろ?それに彼女、うちの社員じゃなくて派遣社員なんだ。お前たちみたいな新人研修は受けてないから会社の事はほとんど知らない。もっと優しい目で見れない?」
黙り込む俺に構わず、彼は話を続ける。
「新人だって最初の半年は使い物にならない。お前が経営者になったら、新入社員もすぐ首切るの?」
一条さんの言う事は正しい。
「お前は頭がいいから自分のことは何でも器用にこなす。でも、次のステップにいくには自分のことだけじゃ駄目だ。何の種かわからないかもしれないけど、大事に育ててみろよ。案外、いい花が咲くかもしれない」
一条さんが悪戯っぽく笑う。
この人、また何か企んでるのか?
でも正直、まだまだ敵わないなって思う。
この人がいればどんな交渉でも絶対に負けないって安心感がある。