深沢の応対はいつもと変わらない。
だが、どうにもならない事態に怒りがこみ上げてくる。
「わかった。じゃあ、明日の朝一で来てくれ！」
投げつけるように電話をガチャンと切った。
深沢が悪いわけではないが、何かにやつ当たりせずにはいられなかった。
イライラが募るばかりだ。
「参ったな」
明日朝一で資料を作り直した方がいいかもしれない。
ビジネスバッグを持ってエレベーターに向かうと、深沢がいた。
「軍曹もいま帰り？まあ、仕事にならないものね」
スマホをいじりながら、彼女は溜め息交じりに言う。
「さっきは……乱暴に切って悪かった」
深沢が気にしている様子はないが、かなり大人気なかったのでとりあえず謝った。
「電車、この停電で止まってるらしいわよ」　
深沢が妖艶な笑みを浮かべて俺を見る。
その言葉が何となく意味深に聞こえるのは、俺の気のせいだろうか。
まさか俺を誘ってる？
俺が黙り込むと、そんな俺の態度にじれたのか深沢がキレた。