杉本がオフィスの入り口付近に目をやる。
そこには、一ヶ月前に新しく庶務担当としてうちの部に入ってきた女がいた。
「庶務担か」
とりわけ美人でもブスでもない女。
可もなく不可もなく……名前何だったっけ?
俺の思考を読んだのか、杉本がハーっと溜め息をつく。
「中山理乃さんですよ。上司なら部下の名前くらい覚えてくださいね」
「お前、一条の嫁が好きだったんだろ?そんな簡単に気持ち変えられるのか?」
「東雲さんとは全然タイプ違うんですけどね。今はまだ好きとか言える段階じゃないですけど」
「杉本、一条の策に嵌まったな」
庶務担を選んだのは一条だった。
特に仕事が出来るわけでも、一条の嫁のように語学が堪能というわけでもない。
詩織さん同様、一条は策略に長けている。
恐らく、奴は杉本の気を嫁からそらそうと企んだに違いない。
杉本が仕事を覚えるいい機会だとか言って……公私混同もいいとこだ。
「佐久間さん、自分の事棚に上げてますよね。僕知ってるんですよ」