「逃げられるのはもう懲り懲りだ。やっと部下の仮面を捨てた君が現れたのに離す訳ないだろ」
「……あの女性が待ってますよ。行って下さい」
あの女性?
ああ、ロシアの勘違い女の事か。
全く、姉といい、ロシア女といい、俺の邪魔をするのは止めて欲しい。
「馬鹿だね、芽依は。あの女性は関係ない。大使のお嬢さんだけど、ただ挨拶してただけだよ」
「嘘よ!」
俺が否定しても彼女は信じない。
今の芽依は動揺してるし、何を言っても聞く耳もたないだろう。
場所を変えて話し合う必要がある。
「俺の言うこと信じられない?なら尚更ふたりでじっくり話し合う必要あるよね?」
俺は真摯な瞳で告げる。
出会いの事も含め、お互いをさらけ出して誤解を解く必要があった。
「でもまだ挨拶が……」 
そう言って躊躇う芽依の唇に指を当てる。
これでもかっていうくらい今日は仕事をして顔も売った。
これ以上、ここにいる必要はない。