このまま朝を迎えるのだろうか?
そんな事を考えていると、ジャケットのポケットに入れておいた桜のキーホルダーのついた鍵がチャリンと音を立てて落ちた。
「そう言えば、まだ彼女に返していなかったな」
落ちた鍵を拾って眺める。
これを返せば、彼女があの時の女だと俺が知っている事実を彼女に伝える事になる。
だが、まだ彼女は心の準備が出来ていないように思える。
再会した時、彼女は俺の様子をうかがっていた。
俺が近づけば近づく程、彼女は怯えた。
バレてるのかどうかわからなくて、ちょっと挙動不審だった。
それも当然か。
このタイミングで俺のところに異動。
不審に思わないわけがない。
おまけに佐久間のお迎え付き。
彼女の頭の中の混乱が、目に見えるようだった。
まだある程度の距離は保つ必要があると思った。
だが、彼女のあの桜のお香の香りが、俺を狂わせたのかもしれない。