部下と言いながら、部長が台車で届けに来そうだ。
でも、私がまだ一条さんに会う心の準備が出来ていない。
「お願いです。早退するので今日は見逃してくれませんか？」
手を合わせて懇願してみるが、佐久間さんは頭を振った。
「一条をこれ以上待たせると怖いぞ」
佐久間さんも威圧感があって十分怖いです。
ここが会社じゃなければ逃げてます。
彼は腕時計に目をやると、私のスーツの袖を掴んで引きずるように海外事業部に連れて行く。
「ちょ……ちょっと、佐久間さん、逃げませんから離してください！これじゃあ目立ちます！」
小走りになりながら文句を言うが、彼は離してくれなかった。
そんな私を部長は片手を振りながら笑顔で見送った。
「これから面白くなるな。優秀な人材がいなくなるのは痛いが、娘と同じ年頃の部下が結婚しないと心配なんだよね。ごめんね、東雲さん。あっ、東雲さんの代わりの社員手配しないとな。ええと～、人事部、人事部」