それきり、うまく言葉が出て来ない。

 顔に熱が集中していくのが分かる。

 けれどようやく少し理解してきた。

 先輩と仲良く話してるアクマ天使を目撃した私が、『また浮気してる!』って、ショックのあまり泣いて走った。それで、謝罪のキスをされたことになっているらしい。みんなの中で、青春っぽく色づけされてるみたいだ。

「みんな、見てたの?」

 一様に首を横に振っている。それなのに何で知っているのか。真相は違うけれど、一部始終を知っているなんて、情報流れるのスペシャル早くないですか?

 びっくりして、目をぱちくりさせる私に、香奈がスマホを見せてくれた。画面にあるのは、SNS。発信源は隣のクラスの瑠璃菜だ。

「とにかく! 朱里が言えないなら、陸人君には、私たちから言ってあげる!」

「いいよ、そんなの」

 断れば断るほどに勢いづいてく少林寺ちゃんを一生懸命なだめていると、聞きなれた声が間に入った。

「俺が、何?」

 当の本人、浮気男のアクマ天使だ。無表情だけれど、やたらと爽やかな空気を運んでくる。

 そのせいか、少林寺ちゃんの振り上げていた拳も、さっと下げられた。

「さっき、俺の名前言ってただろ。何か用があるの」