女の子は、スキスキって言いながら強引にキスを迫るもさ髪男の顔を、力一杯押している。あの制服は隣街にある女子校のものだ。

 そのうち、道行くみんなが遠巻きにして眺め始めた。

「あ、あんた。この子イヤがってんじゃないか。こらっ! 離しなよ! このっ」

 二人のそばにある金物屋のおばちゃんが、もさ髪男の腕を引っ張った。

「ウッセェ! ババア、ダマッテロ!」

 もさ髪男は、荒い口調で言い放っておばちゃんを突き飛ばした。おばちゃんはよろけて店頭にあるワゴンにぶつかる。

 ガッシャァン! ガランガラン……ガラ……ガラ……ンと、派手な音を立てて積み上げられていた鍋が散らばり、私の足元まで蓋がごろごろと転がってきた。

 突き飛ばされたおばちゃんは、周りにいた人達が助け起こしている。

 もさ髪男は、表情ひとつ変えずに女の子に迫っている。

 あの子、泣きながら一生懸命逃げようとしている。善玉って、嘘ばっかり! 何なの、もう! 泣いて嫌がってるのに! 可哀想だよ!

「ねぇ、一応天使なんでしょ。あれ、何とかしてよ!」