アクマ天使はすぅっと目を細める。

 脅したってダメなんだから、そんなの一生言わないもん! というか、いつの間に後ろに来たの? 足、早すぎじゃないですか?

「お前、先に帰んな。待ってろって、言っただろうが。ほら、帰るぞ。さっさとしろ」

 そう言われても手も足ものろのろと動く。

 何で一緒に帰らなきゃいけないの。

「ちっ、仕方ねぇな」

 突然に、グッと手首を握られた。抵抗しても、すごい力でぐいぐい引っ張られて行く。

「ちょ、いい加減離してよ。痛いよ」

 口を尖らせ、斜め前を歩く背中を睨んだ。

 掴まれた腕が暑い上に、背が高いから、無駄に目立っているのが気に入らない。百六十五センチある私の頭が、肩に届くか届かないかくらいなんだ。アクマ天使の身長はいくつあるんだろう。

「なら、逃げんなよ」

「それはもう諦めたよ」

 今だけは、だけど。

 モゴモゴと言うと、アクマ天使はやっと手を離してくれた。掴まれていたところが赤くなっている。どおりで痛い筈だ。

「んもう。酷いよ」

 女の子の扱いがなっていない。口は悪いし、偉そうだし、乱暴だし。

「絶・対、モテないでしょ」

 絶対を強く区切りながら言ってやった。

 すると、アクマ天使はぴたっと止まる。

「あ、図星だった?」

 アクマ天使は無言のままだ。

 ちょっとイヤミが利いてる感じだ。やられっぱなしの私じゃないのだ。

「ちっ。まったく。何笑ってんだ。さっさと行くぞ」

 えへへ、やっつけてやった。そんな些細な優越感に浸り、しばらくの間笑いが止まらなかった。