会話が理解できなくて固まる私の顎を、メガネ君はさりげなく支えた。その笑顔がだんだん近づいて来る。

 こ、これは、ちょっと、まさか。ええ? ええぇ? そんな、嘘でしょ!

「――っ」

 思わず目を瞑り、ついでに息も止めた。

 すると、ふっと笑うような声が聞こえた後耳の傍で囁き声がした。

「そんな顔すんな。何もしねぇよ。助手は、お前にしかやれねぇんだ。いいか、放課後待ってろよ」

 メガネ君はにやりと笑う。その目が、昨日のアクマな天使と、重なった。

 マジですか……。



 ポロロロ~ンポロ~ンとチャイムが鳴り、六時限目の終わりを告げる。私は即行で通学鞄を出して、即行で帰る準備を始めた。

 早く早くっ。アクマ天使に捕まる前に教室を出なくちゃ! 待ってろって言われて素直に待つ私じゃないのだ!

「香奈、じゃね、バイバイ」

「ああ、うん。バイバイ?」

 内緒の声で挨拶すると、香奈はアクマ天使を見て首をひねって、また私を見る。その顔は、一緒に帰るんじゃないの?と言っている。

 いいの! あんなの彼氏でも何でもないんだから!