ふわりと翼を出して、ステージの方へ飛んで行く。天使姿でも、翼は出し入れ自由らしい。

 広場の方では、黒服を着た人が警備員ともみ合っていた。茶髪天使が黒服を捕まえている警備員の頭をぽんと叩くと、ピタッと動きが止まった。

「サナダ、今だ、行け!」

「はい! アルバルク様!」

 黒服が走りながら出したのは、長くてキラキラ光るもの。あれは、あの人の武器なんだ。竹刀と違ってすごく細く、刃先が尖っている。

「あれって、もしかしてフェンシング?」

「ああフレーレだ。あれで対象を突くんだろ」

 お客さんが黒服の行動に気づき、騒ぎ始めた。

「きゃああああっ! 何、あの人」

「暴漢だ! 取り押さえろ!」

「ちょっと、何で警備員は動かないの?」

 騒然とする中、黒服はステージに駆けあがった。

「天命により、貴女を攻撃致す! 覚悟あれ!」

 台詞のような言葉を言い放ち、呆然としている歌手まで一目散に走っていくと、その勢いのまま右肩をぐさっと突いた。

 黒服が刺さったフレーレを抜くと、歌手は苦しそうに呻き声をあげて、崩れるように膝をついた。

 あえぐように息をして肩を押さえる指の間からは、血ではなく光と白い靄が漏れ出ている。