熱くなった手の甲から、竹刀の柄がニョキっと出ている。

 何度見てもホラーな光景だ。

 仕方なく手に取り、中から出した。

 ステージの上にいるのに、今歌ってるのに。おまけに、警備員らしき厳つい人だっている。近付けないよ。

 それに──。

「何、これ……」

 歌声が心まで響いてくる。じーんとしちゃって、涙がぽろぽろ零れてくる。

 すごい上手ってわけじゃない。泣ける歌詞ってわけでもない。ソウルって、こういうのを言うのか。声に迫力がある。魂に訴えかけてくる。

 歌声が耳に届く人みんな、店の人も、通路を歩く人も、ハンカチで目を押さえたり手の平でごしごしこすったりしている。

 心が洗われる感じ。こんな素敵な歌を歌う人を叩けないよ。

 玉が同化してるって間違いじゃないの? あの人、ほんとは天使じゃないの? 

 アクマ天使よりも、あの人の方がず~っとそれらしいよ。

「お前、何泣いてんだ」

「だって。すっごい、良いんだもん。アクマ天使は何も感じないの? スタッフも、司会の人だって泣いてるよ?」

「ああ~、ったく、仕方ねえな。これで鼻水を拭け。そんで、少し落ち着け」

「うん、ありがと」