『よ~し、いい子だ!! 朱里、よく頑張ったなあ!』

 小学三年生の頃、市内の学年別大会で初めて優勝した時、くしゃくしゃに笑って、大きな手で頭を撫でてくれたんだ。すごく嬉しかったな……。

 パパの竹刀で素振りをしてみる。けれど、三九サイズは大人の男性用だから、柄も太くて持ちにくいし、こっちが振り回されてよろけそうになる。

「はあぁ~、やっぱ重いや」

 こんなの振れるなんて、男の人の力ってすごいな。

「用って、それか」

「うん。これ、パパの竹刀なの。もうすぐ夏祭りの準備が始まるから、持って帰らなくちゃいけないんだ」

 また、ベッドの下に隠しておかなきゃ。祠の中から、紺地にトンボ模様の竹刀袋を取り出した。無地の部分に金糸で『無心』の刺繍がある。これも、パパの愛用してた物。自分のとパパの、二本とも仕舞って、きちんと紐を縛って抱えた。

「寄ってくれて、ありがと。ごめんね、待たせて。もう帰ろ。のど渇いちゃった。春川さんにカルピス貰わなくちゃ」

 えへへと笑ってみる。そんな私の前にアクマ天使が立った。

 綺麗な清んだ目が、私をじっと見つめてそのまま動かない。