ふんわりとした優しい風が頬に当たる。行きとは違って、ゆっくり飛んでいるのだ。
地上に見える家がまばらになって、こんもりした緑色の塊が見えてきた。その真ん中にあるのが山の上神社。小さな屋根の傍をめがけて、ゆっくり下りて行く。
セミがうるさいくらいに鳴いてるけれど、しんとした神聖な空気は心が静まる。地面に足が着くと、ホッと息が漏れた。
「ん~、久々! やっぱ、落ち着く~」
胸一杯に空気を吸い込んで大きく伸びをする。教会の空気も好きだけど、やっぱり、こっちの方がいい。
ポケットから一円玉を取り出して、さい銭箱に投げ入れた。戸を開けて、竹刀を二本取り出す。一本は私の物。もう一本は、パパの愛用していた三九サイズの竹刀だ。
「良かった。ちゃんと、ある」
手入れが行き届き、キレイな飴色になった竹をしみじみ眺める。
パパは竹刀を大事にする人だった。だから私もそうするようにって、しっかりと手入れの仕方を教えられている。
勇猛な虎の絵が描かれた三九用の鍔をはめて、柄革の手痕に重ねるようにして持つ。手痕は私の手じゃ覆いきれなくて、黒い部分がはみ出てしまう。
「パパの手は、こんなに大きかったんだよね……」