自動車はこの時代、なかなか乗らせてもらえない乗り物だった。

毒が回って以降、自家用車のみならず公用の車でさえ維持するのが難しく、皇帝の送迎など最重要の任務の護衛の一つとして使用するのに精一杯だ。

「いや、ダメだな。未熟すぎる。車内で外の状況と中の人物の状態を確認しながら護衛したり、戦いに備えたりするにはもう少し訓練がいる。期待させて悪いがシオリ、諦めろ」

「…車か」

ぼそっと呟いたつもりが、地獄耳のセキグチには聞こえていたらしい。
何だ?と問われてしまう。

トウカは首を少しかしげて、真顔で隊長を見つめ返した。

「いえ、公用の車に乗るのは少し怖いなと思いまして」
「ほう、何か思い入れがあるのか?」

トウカが少し黙ると、コホンとサツキが咳払いをした。
セキグチが振り返り、サツキの表情を見て大きな図体を申し訳程度に縮こまらせた。

「隊長、感情的にはなるなとクギを刺しておいて感情を引き出すのはどうなんですかね」
「すまん」
「大丈夫です。特に思い入れがあるとかではないので。公用車、壊したくないのでちゃんと見たいなとは思ってましたが」

そうか、と隊長が笑う。
しかし、トウカは違ったところに思いをはせていた。