「えー、そして尾崎氏の尽力によってできたのが我々、解毒者(Detoxifier)なのであります。ご理解いただけたかな?」
教授の声が、教室に響いた。トウカは小さく息を吸って、目の前の教科書と黒板を見比べた。そよ風が肌をなでる。
大講義室の窓際は心地よく、眠気を誘う。春の陽気は、昔のことを思い出させる。
「聞いているのかね、トウカくん?」
突然名前を呼ばれ、はっとして顔を上げた。
隣で、ルームメイトのルリがおろおろと教授とトウカの顔を交互に見ている。
「すみません。あまり聞いていませんでした」
冷静にそういうと、教授がピクリと眉を動かした。ルリのおろおろ顔が悲壮なものに変わる。
「トウカくん、君、成績は素晴らしいがね。もう少し熱意をもって取り組むことはできないのかね?」
老齢の教授は、張りのある声でトウカをたしなめた。
「すみません」
「…まあ、いいとしよう。しかし、質問には答えてもらわないといけないな」
平常点に必要なんだよ、と小さな声で付け足される。分かりました、と返事をする。
「我々はかの尾崎氏によって創設されたこの部隊で戦うことが許された。しかし、最大の敵がいたね?彼らの名前を、憶えているだけ暗唱してくれるかな?」
簡単な問題だった。教授の優しさが感じ取れる。
ここ―トウカが所属する皇帝直属の機関、Detoxifier(解毒者)は、尾崎という青年の尽力によって昔々に設立された、服毒者と戦うための部隊だ。
服毒者は、ただの「毒を飲んだ者」ではない。その毒を飲んだ者は、死を迎えるか、「おかしくなる」かだ。
どちらか選べるなら死ぬことを選ぶ、と言う人が多数である。
なぜなら「おかしくなる」とは、「人ではなくなる」ことと同義だからである。
研究の結果、服毒者の毒は六つの花の生存本能によるものだと分かった。
六つの花といっても毒を採取できたのは、その製造が始まった年に咲いた貴重な花で、己の周りにある生物を全て殺してしまうものであった。
根から毒を出すことで、周りの生物の細胞の機能を働かなくしてしまうのだ。
人間に薬として投与された毒は、脳に働きかけ、3日は疲労を感じさせなくなり、投与された者は体調がよくなったように感じる。
ところが全身に回った瞬間、皮膚はただれ始め、脳機能は破壊され、理性のない怪物に変化してしまう。
疲労や痛みを感じることはできず、飢餓感と絶望感だけが残り、見たもの全てを喰おうとするのだ。
しかし、この毒に「適応」するものが現れた。
それが、
「『六花』です、先生。彼らは六種類の花の毒の致死量を超えて投与されましたが、他の人々と違って死ぬことも脳を侵されることもありませんでした。六人いますが、本名はわかっていません。雪割草の服毒者、ユキのみ顔が割れています」
「その通り。では、彼らの特徴は何かね?」
「全員が紫の目を持っているとされており、身体能力が抜群に優れています」
「お見事。そう、私たちの最大の敵は六つの花。服毒者のトップ、『六花』です。これからの訓練では、彼らを想定したものが増える。であるからして、君たちは心してかかること。では、ここまで」
では君も、もう少し真面目に授業を受けるように。
そう言い残して、教授は教壇に戻った。
教授の声が、教室に響いた。トウカは小さく息を吸って、目の前の教科書と黒板を見比べた。そよ風が肌をなでる。
大講義室の窓際は心地よく、眠気を誘う。春の陽気は、昔のことを思い出させる。
「聞いているのかね、トウカくん?」
突然名前を呼ばれ、はっとして顔を上げた。
隣で、ルームメイトのルリがおろおろと教授とトウカの顔を交互に見ている。
「すみません。あまり聞いていませんでした」
冷静にそういうと、教授がピクリと眉を動かした。ルリのおろおろ顔が悲壮なものに変わる。
「トウカくん、君、成績は素晴らしいがね。もう少し熱意をもって取り組むことはできないのかね?」
老齢の教授は、張りのある声でトウカをたしなめた。
「すみません」
「…まあ、いいとしよう。しかし、質問には答えてもらわないといけないな」
平常点に必要なんだよ、と小さな声で付け足される。分かりました、と返事をする。
「我々はかの尾崎氏によって創設されたこの部隊で戦うことが許された。しかし、最大の敵がいたね?彼らの名前を、憶えているだけ暗唱してくれるかな?」
簡単な問題だった。教授の優しさが感じ取れる。
ここ―トウカが所属する皇帝直属の機関、Detoxifier(解毒者)は、尾崎という青年の尽力によって昔々に設立された、服毒者と戦うための部隊だ。
服毒者は、ただの「毒を飲んだ者」ではない。その毒を飲んだ者は、死を迎えるか、「おかしくなる」かだ。
どちらか選べるなら死ぬことを選ぶ、と言う人が多数である。
なぜなら「おかしくなる」とは、「人ではなくなる」ことと同義だからである。
研究の結果、服毒者の毒は六つの花の生存本能によるものだと分かった。
六つの花といっても毒を採取できたのは、その製造が始まった年に咲いた貴重な花で、己の周りにある生物を全て殺してしまうものであった。
根から毒を出すことで、周りの生物の細胞の機能を働かなくしてしまうのだ。
人間に薬として投与された毒は、脳に働きかけ、3日は疲労を感じさせなくなり、投与された者は体調がよくなったように感じる。
ところが全身に回った瞬間、皮膚はただれ始め、脳機能は破壊され、理性のない怪物に変化してしまう。
疲労や痛みを感じることはできず、飢餓感と絶望感だけが残り、見たもの全てを喰おうとするのだ。
しかし、この毒に「適応」するものが現れた。
それが、
「『六花』です、先生。彼らは六種類の花の毒の致死量を超えて投与されましたが、他の人々と違って死ぬことも脳を侵されることもありませんでした。六人いますが、本名はわかっていません。雪割草の服毒者、ユキのみ顔が割れています」
「その通り。では、彼らの特徴は何かね?」
「全員が紫の目を持っているとされており、身体能力が抜群に優れています」
「お見事。そう、私たちの最大の敵は六つの花。服毒者のトップ、『六花』です。これからの訓練では、彼らを想定したものが増える。であるからして、君たちは心してかかること。では、ここまで」
では君も、もう少し真面目に授業を受けるように。
そう言い残して、教授は教壇に戻った。