「おい、嘘だろ……」


俺の耳に浩成のそんな声が聞こえて来る。


子鬼たちがざわめきはじめるのがわかった。


しょっぱなから音程を外す俺に広間の雰囲気は明らかに変わっていた。


「早人、しっかりしろよ!」


浩成が悲痛な声を上げる。


だけど俺はやめなかった。


わざと下手に歌っているとはいえ、死ぬほど恥ずかしい。


だけどここで終わるわけにもいかない。


綾へ視線を向けると、綾は顔を上げてこちらを見ていた。


顔色は青いままだけれど、とまどったような表情を俺に向けている。


そんな綾を見て、俺はほほ笑んだ。


綾を守りたい。


綾を助けたい。


だからこれでいいんだ。


そう思い、思いっきり、清々しいほどに音程を外して歌ったのだった。