教室を出て、別に本当にトイレに行きたかったわけじゃない私は特に行く当てもなく廊下を歩く。


それからスマホに目を落とし、さっきのメールをもう一度確認した。


……リソウカレシ、かぁ。

1回やってみるくらいなら問題ないだろう。

飽きたらアンインストールすればいいんだし、何より無課金でも楽しめるって堂々と書いてある。


──……結愛ちゃんがあんな風にカレシと仲良くしているのが、羨ましくないわけがない。


乙女ゲームでも何でも、とりあえず2次元男子に慣れてしまえば、現実の男の子と喋るのもちょっとは楽になるかもしれないよね。



そう考えながら時間を確認すると、もうあと数分で朝のSTが始まる時間になっていた。

あとから結愛ちゃんと一緒にやってみよう。

乙女ゲーム初めての私には、結愛ちゃんみたいにやったことある人に教えて貰う必要があるもんね。




そんなことを思いながら、さっき出たばかりの教室へUターンする。


教室に入るとまだ結愛ちゃんと皆木くんの2人は仲良く話していて、やっぱり羨ましいなぁ、と思ってしまった。



そのままチャイムが鳴るまで自分の席には近寄れないから、入口のところで立ち止まる。

……と、バタバタとギリギリで教室に滑り込んできた男の子がチラリと私を見てきた。


「はよ」


──多賀谷 祐介(タガヤ ユウスケ)くんだ。

私と隣の席の男の子。


「お、おはよう」


慌てて挨拶と笑顔を返すと、多賀谷くんはすぐに自分の席の方へと行ってしまった。

ちょうどチャイムも鳴ったため、私も彼に続く。


席に腰を下ろすと、隣の席の多賀谷くんがそっと囁いてきた。


「悪い。俺今日一限の数学、教科書忘れて。見せて貰っていい?」

「あ、うん。もちろんいいよ」


多賀谷くんは割と忘れ物が多くて、こんなこともよくあることだ。

男の子と話すのは苦手だけど、多賀谷くんだけはまだマシかもしれない──…な。