家に帰ってすぐ真琴くんにせかされ、お母さんに電話をかけた

ルイくんの言っていたフランス行きの話をして

私が今、どうしたいのかをはっきり伝えた

お母さんはなんの迷いもなく了承してくれた


『梓の好きなようにしなさい』


…お母さん

ありがとう

通話終了画面の携帯を抱きしめた


「梓」

「どうしたの?」

いつもの席に座って向かい合っていた私たち

ダイニングテーブルの向こう側の真琴くんが机の上に黒い何かを置いた


…えっと
それは

「か、カード入れか何か?」

「…うん。俺が中学の頃に使ってたバスの定期入れ」

バスの…定期入れ

ほぉ
なぜに?

「…見覚えない?」

見覚え?

そりゃ

バスと言えばあの男の子の…


「…え?」

思わずその定期入れを手に取った

定期に書いてある地域は私があの一週間乗っていたバスが通っていたところ



目の前で私を見る同居人と過去の記憶の人物が重なる


「一週間でいなくなってさ。割と残念だった」

真琴くんが少し笑った

……え