「…真琴くん?」


耐えろ

織原真琴


「………、…分かっ、た」


耐えろってば

いや、でも梓が頼んでるんだし
でも…そこで止められるか?
いや梓のためだから

梓の嫌がることはしない
絶対に


これが本当の葛藤らしい

ふぅーっと深く息を吐いてなんとか自我を守る


「梓…本当にいいんだな?」

「…思い出したくないの」

…そうだ

梓はただ単にあいつにされたことを忘れたいだけ
それだけだ

そう自分に言い聞かせて、梓の両肩に手を乗せる

「一瞬痛いかも」

「…うん」


梓がぎゅっと目を瞑った

肩に力が入っているせいか、くっきりと白い肌に鎖骨が浮き出ている

その鎖骨を指で撫でるとビクッと肩が揺れる


ふ…う


軽く深呼吸をして落ち着く

そしてそっと口を近づける

目障りなあいつの跡の上

梓の首にかかる髪を退けて、口をつけた


「っ…」


細く、か弱い綺麗な鎖骨

白く、さらさらで柔らかい肌

意識するとやばいことになりそうだから

必死でムカつくあいつの顔を思い浮かべて怒りに理性を保たせる


「…は」

梓の首元から離れて髪を戻す

梓がゆっくりと目を開けた

「取れた…?」

いや取れはしないんだってば

「…俺ので隠した」

「……ありがとう」


純粋にお礼を言ってきた無知な梓に罪悪感で胸を締め付けられながら目を逸らす

「…風呂…入れる」