「ねえ離して」
「イヤだ」

力ずくで逃げようにも、敵うはずもなく。
こうして叫んでいるうちに息まで上がってきた。

「私1人で行くから、お願い離してよ」
肩で息をしながら必死に足を踏ん張るけれど、体はマンションの入り口へと引きずられていく。

「徹さん、お願い。待っ」
苦しくて言葉が止った。

マズイな。
これって、発作の前兆。

「どうした?」
私の異変に気づいて徹さんの焦った声。

「苦しぃ」

「救急車を呼ぶか?」

「違ぅ、横になりたい」

そんなに大きな発作でないから、横になって薬を飲めば収まるはず。
だから、

「わかったから、ジッとしていろ」

そう言うと、膝裏と背中に手を回し抱き上げてしまった。
いつもなら恥ずかしくて抵抗するところだけれど、今はそんな余裕もない。

フウー、フウー。

少しでも酸素を取り入れたくて深呼吸を繰り返す。
けれど、苦しい。
目の前もぼやけているし、エレベーターの振動で気持ちも悪くなってきた。

ウッ・・・

ヤダ、吐きそう。

「お願い降ろして。徹さん、降ろしてっ」

「もう少しだから、待て」

少し足を早め、廊下を進んでいく徹さん。

無理、無理だから。
「もうダメ、吐く」

胃から食道に向けて上がってくる感覚。

ちょうどその時、部屋の前まで来た徹さんの足が止った。
それでもか抱えられたままの私は、着ていたカーディガンの裾で口を押さえることしか出来ない。

ウウウゥー。

もう最悪。
ここから今すぐに消えてなくなりたい。