「ねっ、糸ちゃん知ってる?」


柔らかな、志悠の声に、「何?」と、首をかしげる。


ちょい、と指で前髪を弄りながら、志悠の姿がハッキリ見えるようにする。


志悠の時だけ。


志悠が視界に入るときだけは、視覚も聴覚も遮断しない。


「今日ね、私たちのクラスに転校生が来るんだって!
アメリカからの帰国子女らしいよ」


「男子なら、…別に興味ない」


ボクの呟きに、あははっ、と可愛らしく笑う志悠。


「も~、糸ちゃんってば、いつもそうだよねぇ」


いや、──ボクは男に興味ないんじゃなくて、女性しか好きになれないだけか…。


「漫画なんかじゃ、」


黙っていた碧人が喋りだした。


「めちゃくちゃカッコいい男が教室に入ってきて、女子達がきゃーっ、って色めき立つよね」


「あははっ、それは漫画だけだよ」


碧人と、楽しそうに言葉をかわす志悠を見ると、ボクは何も言えなくなる。



だって、

同じだから。



碧人に向ける志悠の表情は、志悠に向けるボクの表情と同じ。


「ほとんどの女子が騒ぎ出すって、どんだけ万人受けする容姿なんだよ、って、感じだよね」


碧人の言葉に、可愛らしく笑う志悠…。


可愛らしい微笑みは、ボクには1ミリも向けられていなくて。



今は、全て碧人に向けられている。



ボクが、───碧人の存在を“望まない”理由の、ひとつは、コレのせい。