「志悠、おはよ」


そっと、背後から志悠の肩に手をのせ、声を掛ける。



石鹸みたいな香りがする。


香水じゃないことくらい、ボクにだって分かる。



「あ、糸ちゃん、おはよ~」



にこりと微笑んで、挨拶を返してくれた志悠…。



肩までのふわりとした、若干色素の薄い髪が、ボクの指をくすぐった。



ムズムズする。



「天ちゃん、おはよー」


志悠のことを、「天ちゃん」と呼ぶのは、碧人だけ。


それは、───気にくわない。


まるで、“特別”な存在だと、言わんばかり。


「日野君も、おはよ」


にこりと微笑む志悠…。


ボクはそっと、さっき志悠の髪に触れた指を、片方の掌(てのひら)で包む。



と、と、と、…と、ボクの心臓が、妙にうるさい。


でも、志悠には聞こえないし、届かない。



ぎゅっと、両手を握り合わせ、志悠の、石鹸みたいな香りを吸い込んだ。