「さ、さむい。」


「そりゃ、あんな雪降ってるなか彷徨ってたらな。」


「雪じゃなくて吹雪ですよ…」


「……どっちでもいーんだけど。」




お風呂が沸くまでの間、流れでわたしは桜井くんの隣に腰掛けている。

真っ白なふたり用のソファ。

銀色の髪を持つ桜井くんにはなんだか合っているような気がした。




「……なに?」


「え、あ。ごめんなさい。桜井くんの髪の毛見てました。」




……見すぎてたみたい。

銀色の髪をしている人なんて生まれてはじめて実際に見たから、髪の毛の一本一本まで気がついたら見ていてしまう。

これ、染めるときにどれくらい髪の毛痛んだんだろう…。


わたしは生まれて一度も染めたことがない。

だからこそのキューティクル満載、みたいな艶々の髪。

この髪の毛はお母さん譲りだ。


痛みを知らない黒髪。



ていうかなんだろ、この銀髪。

見てると眠くなるような……。




「……見すぎ。」


「…え?…あ、。」


「珍しいからってあんま見んな。観察されてるみたいで気分悪い。」




……その言い方はなくないですか?




「……なんで銀色なんですか?」


「………。」


「わたし無視されました?」


「……お前は質問ばっかだな。」


「…桜井くんのこと、何も知らないので。」




そう言ったとき、ずっと無表情だった桜井くんの顔がなにか変わった気がした。

表情が、とか。そういうんじゃなくて。


真っ白になった。




「……知らない方がいい。」


「…どうして?」




桜井くんは何も答えてくれなかった。

ただ、なぜか気まずくない沈黙にお風呂が沸いたことを知らせる音が鳴り響く。



桜井くんが立ち上がって部屋から出て行ったとき、わたしはわかってしまったんだ。



桜井くんにもわたしと同じ暗闇があって。

きっと同じように抜け出せないんだって。



桜井くんがわたしに示した線を超えたとき、わたしはここには居られなくなるんだって。