瑞季さんに出会ったばっかりの頃は、ちょっと性格のキツイ人だなって思った。

ミスはどんどん指摘してくるし、仕事が忙しいときほんの少し見える、不機嫌な表情とか。

でも……。

『若葉くん。ちょっと』

だいぶ前。

小声で名前を呼ばれて、あーまた怒られるんだろうな、なんて思ったとき。

『さっき、常連さんから差し入れもらったんだけど』

そう言ってコソッと長細い箱に入ったケーキを見せてきた彼女。

『数えたら一個余るんだ』

『え?』

『今店長もお客さんもいないしさ』

『……』

『ふたりで食べちゃおう』

『え、いや、』

『なんで?若葉くん、ケーキ嫌い?』

『いや、好きですけど、』

『おっ、わたしも好きっ。ね、だから食べよう』

『わたしも好き』
ケーキに向けて言ったのはわかっていることだけれど。

無邪気な笑顔で向けられたそのセリフが脳裏を離れなくて。