「紗奈ちゃん」


呼ばれて、「うひゃあ!」と声をあげてしまった。ええ……、自分の声だけど、困惑。


もっとさ、いろいろあるじゃん。


可愛らしい声がいいー! って、欲張りはしないよ、大きすぎる夢も抱かない、でもでも、うひゃあ、はない。


相手が橘だったからよかったけど──いや、橘だからこそよくない? んん、わたしのテンションを知っているひとの前ならまあいっか、って開き直れるかなあと思ったけども、恋人の前、


──……もう気にしないことにしよ、過去は変えられないし、たぶんこれからのわたしも変わらない。


「どうした?」


何事もなかったかのように、たずねる。


……と。