「ああ、紗奈ちゃん、見ちゃった」
まっか。まっかだ、橘。
いつものにやけとか、顔を覆って隠しちゃうとか、そういうのでなくて。
姿勢よく立って、まっすぐ見てる。
思わず、2歩分を取り戻しに走った。
さっきは逃げるためだったから、大きな1歩。
いまは、恥ずかしさと、時間稼ぎと、距離がちかすぎてしまわないように、という考えとで、小さい。すっごく小さい。
「こんなんだから、おれからは紗奈ちゃんに近寄れなかったの。──……でも、紗奈ちゃんがこっち見てくれたら、もうぜんぶいいかなって」
わたしもぜんぶいい。ぜんぶしあわせに変わっちゃった。