第一章 神風とお菓子

俺はまだ生まれたてで兄達はまだ幼い頃,両親は死んだ
死因はトラックに轢かれ即死だったそう
爺ちゃん婆ちゃんが言うには
「とても素敵な人達だった」
だそうだ
俺は全く分からないから涙すら出なかったが寂しさと苦しさとぐちゃぐちゃな感情に包み込まれる
そんな時
一冊の本に出会った
ページを開くとそれはお菓子の本
キラキラ輝いて見えたそれは心を癒してくれた様に感じた
これが俺とお菓子の出会い

「後はコーヒーがいるな」
朝早くから俺は起きるのが習慣で朝食を作るのも俺担当
毎日やっているから慣れてしまったのも事実
「兄貴!起きろってんだろ!」
俺の兄を紹介しよう
「うっせーな!分かっとるわ!」
長男
皇帝都 読み方は すめらぎ・ていと
銀髪ピアスたくさん付けているが地毛が銀髪なので気にすんな
性格はまぁ,優しいな俺とか家族には
「たく,神風~」
そして俺に抱きつくこいつは
次男
皇翡翠 読み方は すめらぎ・ひすい
銀髪ピアスなし
性格は帝都と似ているが甘えん坊だな
「何だ,邪魔なんだが?」
俺は皇神風 読み方は すめらぎ・かみかぜ
銀髪ピアスなし
性格は兄二人を足して甘えを抜いて割った感じだ
俺はスタスタと歩き机に朝食を並べていく
翡翠はむすっとしつつも手伝ってくれる
「ありがとな」
俺は微笑み翡翠の頭を撫でる
まるでどっちが兄か妹かわからない様だな
「おぅ!」
翡翠は嬉しそうに座り待ってくれている
「おい!神風テメェ俺にもしろよ!」
帝都が俺の手を掴み頭に乗っけた
俺は溜息を吐きながらも左右に手を動かす
「仕方ねぇな」
二人は俺の前だと大人しくして優しい兄になる
だが
外に出ると
外見からか怖がられ逆に怖がらしている
俺は学校へ行くがほとんど分かるから授業は出てない分プリントで終わらしているのだ
「今日は帝都の好きな物を作ってみた」
朝食を見て帝都は嬉しそうに
「マジか!」
と言った
「翡翠のはまた明日な」
翡翠の方を見ると翡翠はその言葉に
「おぅ!」
と元気に返事した
俺は祖父母のを呼びに行く
「爺ちゃん,婆ちゃん朝飯だ」
「「おぉ,かー君」」
俺のことをかー君と呼ぶのは爺ちゃんと婆ちゃんだけだ
俺は微笑み二人を待つ
二人はいそいそと片付けこちらへ歩いて来る
「かー君,おはよう」
爺ちゃんの皇善 読み方はすめらぎ・ぜんと言う
「ん,はよ」
「かー君今日は何を作ったんだい?」
婆ちゃんの皇嶺 読み方はすめらぎ・れいと言う
「今日は帝都の好きな物を作った」
俺の言葉に爺ちゃん婆ちゃんは頷きながら俺の頭を撫でる
俺は真っ赤になって
「何すんだよ………」
と言いつつもその手を振り払うことはしない
「今日もお菓子楽しみにしとるよ」
俺を見て微笑む爺ちゃん
「!」
俺はバット顔をあげる
「かー君の作るお菓子は格別よ」
婆ちゃんも嬉しそうに頬に手を当て呟く
「楽しみにしてろよ………絶対美味いから」
俺はワクワクしながら食卓につく
全員で食卓を囲むのが約束だから
俺たちはそうしている
食器を片付け
いよいよ
兄達が慌てる時間になる
「今日会議だってんだろ!」
おいおい,今日大変だな
「知ってるわ!行くぞ!」
帝都が俺に顔を向けて手を振る
「おう!行って来ます!」
翡翠も手を振る
「行って来い」
俺は片手で手を振り見送った
爺ちゃん婆ちゃんが楽しみにしている菓子を作るために
俺は準備をする
今の季節は夏だ
暑くも寒くもない時間だから錦玉羹の基本菓子
さざ波
を作るか
さざ波は寒天と水を煮溶かし砂糖を加えて作る夏の代表菓子
色んなバリエーションができて割と楽だ
ただ砂糖の量で透明感が出なくなったりする
菓子で言うと和菓子だな
ついでにもう一つ作る
醤油で作るフィナンシェ
フィナンシェは卵白だけ使うから割と重宝している
菓子で言うと洋菓子だな
「さざ波を固めている間にフィナンシェか」
まるで動画を見ているかの様に早く,丁寧に作業が終わっていく
俺は慣れているからだと思っているが爺ちゃん達にとっては難しとの事だ
「し!出来た!」
さざ波が固まったのとフィナンシェが焼けたのを見て微笑む

同時に二人の声が聞こえる
「「かー君まだかい?」」
俺は嬉しそうに
「出来たぞ!」

言った
「召し上がれ」
「「頂きます!」」
パクリと食べる二人
爺ちゃんは洋菓子が好きだからフィナンシェを
婆ちゃんは和菓子が好きだからさざ波を
二人はニコニコと微笑み
「「美味しい」」

俺を見て笑った
「良かった」
俺はほっとして笑う
「じゃあ学校行って来るな!」
俺が靴を履いていると後ろから見送る二人
「うむ!行ってらっしゃい」
「気を付けてね?」
「あぁ!」
俺は片手を上げて左右に振る
こうして
俺の1日がやっと始めるのだ
第二章 甘い香り

学校へ行く途中
甘い香りがした
それはお菓子の匂い
俺は気にはなったが俺の手元からだと気付き歩き出す
学校の生徒全てと先生共がくれだのなんだの言うから毎回困っている
だが
俺の作った菓子を食べてくれるのは悪くない
学校へ着くと生徒のほとんどが窓から顔を出して手を振る
「今日はどのクラス!?」

俺が毎日毎日生徒全てに作る訳も無く毎日違うクラスごと作っている
代金ももちろん貰うさ
「さぁ?楽しみにしてろ」
鼻で笑いながら中に入る

先生達がワクワクした顔をしていた
先生達にはよくしてもらっているから毎回渡している
「さざ波とフィナンシェ,どちらが良い?」
「さざ波かな」
先生達は和菓子が好きだと知っているが中にもたまには洋菓子を食べたいと言う人もいるのだ
だから
わざわざ聞いている
「ラッピングしてるからな」
和紙で包んだのを渡していくと校長が
「これは綺麗な和紙だね」
と言った
流石校長
いいものを分かっている
「だろ?京都のだ」
高々と言うと校長は閃いた様で校長室に入って行った
「高かっただろう?これをやろう」
校長室から手で来たと思えばその手には綺麗な和紙と包み紙がある
「くれるのか?これこそいいものだな」
一枚の和紙を手に取り見つめる
校長はニコニコと頷きすべてのものを渡してきた
俺は少し戸惑いつつも渡されるものを貰う
「また何か作る」
「頼むよ」
校長にさざ波を三個渡してその場を去ろうとすると担任の寿先生に呼び止められる
「神風」
「あ?」
俺が寿先生の方を向くと寿先生はニコニコとしながらプリントを持っていた
「プリント,これくらいでいいか?」
ざっと数えて三十枚か
「足りねぇ,後十枚は寄越せ」
寿先生にフィナンシェを渡しながら言うと寿先生は食べながら心配そうに
「そんなにか?無理してないか?」
と聞いてきた
俺にとってそれは無理とは言わないむしろ
「皆が頑張ってんのに俺だけズリィから」
と思う
「分かった,後十枚は持って来るな!」
「おう」
俺は誰かが頑張っているのをお前には無理だからと止めたりも何もしない
その頑張りを俺がどうこう言える訳ない
頑張りすぎんなよと気持ちを込めてお菓子を作る
俺は
仕事としてじゃ無く想いを伝えるために作っているのだ
努力は誰も見捨てない
努力することに意味がある
最初から諦めるよりかは遥かに良い
頭が悪いとか良いじゃ無く
諦めるか努力するか
頑張るか頑張らないか
だろう?
「今日はどのクラスだっけな?」
じっと教室の表を見つめる
寿先生の足音がした
俺が振り返ると寿先生がプリント十枚持ってきている
俺は一礼してそれを渡してもらう
「ありがとな」
俺の言葉に寿先生は
「こちらこそ」
と笑った
俺は嬉しくなりつつも家庭科室へと向かう
家庭科室には俺の本や器具,磨くもの,材料全てが揃っている上
もちろん買い足している分もある
「さて,作るか」
プリント四十枚を解きつつ器具を洗い乾かす
スイーツを作る時ボールが濡れていたりしないか?
それはいけない
なぜなら
分離や不味くなるからだ
例えるならチョコ
水の入ったボールじゃダメと書いていないか?
下準備とは
そう言うものも含まれている
「今日は飴細工とシーブーストを作るか」
まず先に飴細工
飴細工にも種類がある
流し飴
引き飴
吹き飴
の三つだ
流し飴はそのまんま
型に流して入れる飴細工
引き飴は例えば薔薇とかを作るために花弁を作るだろ?それだ
吹き飴は透明な器にする感じか?俺はよく分からなねぇから調べろ
その中で俺が今日作るのは引き飴だ
金色の薔薇を作る
飴を煮詰めている間俺はシブーストの下準備を始めた
皮を剥いたリンゴを2、3センチ角切りにすると板のゼラチンを冷水で戻す
「煮詰めているな,よしクレーム・ド・ターターを入れるか」
クレーム・ド・ターターは酒石酸水素カリウム要は飴細工をする時に入れるもの
それで固まり飴細工となるものができたら始める
シブーストを作り終えその上に薔薇を乗せた
「し!完成!」
放送室に行きチャイムを鳴らす
「一年三組至急家庭科室へ来い出来た」
ブチッと切り家庭科室へといくともうすでに来ていた
「………おう」
それに引いたのは
知らないふりをしてくれ
第三章 推薦を受け入れる

祖父母が学校に来ることになった
何故なら俺に推薦が来たからだ
俺は正直嫌で断ったはずだが………
「かー君」
「俺は嫌だって,俺はここを離れる気はねぇ」
爺ちゃんが少し困った声で俺を呼ぶ
婆ちゃんは静かに俺の作った和菓子を食べている
因みに和菓子は羊羹
「だがな?ここも譲らないとの事だ」
どこまで頑固だそっちは
「寿先生がなんとかしろよ…」
あんた一応教頭だろ
「かー君,私は行くべきだと思うよ?」
婆ちゃん………それは俺はもう要らないってことか?
「婆ちゃん‥俺は」
「要らないとかじゃないわい」
びくっと身体が揺れる
「お前さんの力を十分に発揮できるチャンスじゃ行って来なさい,後悔しない様に」
「俺の力はどうすれば良いんだよ!」
俺のこの力はどう制御しろと!?
「それを制御するのもまた然り」
然りって!
「………チッ分かったよ!」
「ありがとうな!」
帰り道
俺は何も言わなかった
泣きたくないから
「かー君」
爺ちゃんが声をかけてきたのに
「何だよ」
俺は冷たくしてしまう
「荷物まとめておくんだよ」
分かってる
「わーてるよ」
そっぽを向いて歩き出す
すると
家にもう着いていた
部屋に行き荷物をまとめる
その時に
ノックが聞こえた
「あ?」
「かー君」
婆ちゃん………
「あんだよ」
俺の部屋に入り婆ちゃんは椅子に座る
「もう荷物をまとめるのが早いのね」
その目には涙が溜まっていた
俺は見ないように下を向く
「あまり物はおかねぇから」
声が震える
駄目だ
「かー君」
その声が聞こえなくなる
その温もりがもう感じることができなくなる
不安だった
悲しかった
怒りたかった
だけど
一番俺を思ってくれて考えてくれて応えてくれたのはやっぱり家族だった
俺はそれを知ってる
「俺は有名な菓子職人になる!絶対後悔なんかしねぇ!」
涙をボロボロ溢して叫ぶ
婆ちゃんは静かに泣いた
爺ちゃんが外で泣いてるのも知ってる
「帝都,翡翠」
「………寂しいな」
「俺は待ってるよ」
兄さんが泣いた
俺はそれにもびっくりした
だけど
「バーカ,俺の作った菓子は送ってやるよ」

俺はそばにいないけど菓子くらいいつでも作るよ
と伝える
兄さん達は俺を抱きしめた
最後だと
これで
思った
「バーカ」
俺はそれしか言えず
兄さんを抱きしめ返した
そして出発の日
俺は荷物をトラックに乗せてスーツケース一つ持ち空港へ行く
行先はイギリスのお菓子の学校
sweets Angel School
天使の菓子学校

俺はそこへ行く
推薦どころか特別推薦だったそうだ
「………」
それを知ったのはイギリスについてからだったのは怒るも何もない
しかし学校がよ
「デケェな」
俺は堂々と中に入る
すると
大勢の学生が俺の顔を見て何か話している
気にくわねぇな
俺はギロリと睨みながらも校長室へ行く
「失礼するぞ」
「来てくれたか‼︎」
いきなり抱きついてこようとするこいつが校長か?
素直に嫌いだ
「君のスイーツが食べたいのだ!」
ニコニコと俺に近づいてくるこいつ
「つーかお前誰だよ!」
俺はギロリと睨みながらも答える
「失敬失敬,私はヴェール・グレイスここの校長の息子で君のことが大好きな一人さ!」
グレイスさんか
大好きとかほざいてるがそれは無視しよう
「校長に用があるんだが?」
「わぁ!その手にはスイーツかい?」
キラキラとした目で見られる
俺はその目が大好きでため息を吐きつつ
「座れ」
と呟く
彼はその言葉の通りソファに座る
「??」
彼は分からないだろう
俺の力を
まだ言う気はしねぇが
「校長が来るのはいつだ?」
「暫く来れないよ」
「そうか」
ソファに座りケーキの箱を開ける
そこにあるのはショートケーキ
俺が一番自信を持つもの
だが
ショートケーキ一つでその人の味が分かる
つまり
どれだけの価値があるか分かる
「自信家かな?」
頂きますといい口に運ぶグレイスさん
俺はそれを見つめる
カッと目が開いたと思えば頬に手を当てた
「美味し~!!!!」
「そうか」
良かったと安心する
と思ったのも束の間
「君ねぇ,私より先に食べるとは何事か」
不意の声に俺は内心どきっとした
「父さん!」
お,こいつが父さんと言うのならこいつが
「校長か,どうも」
俺が挨拶をすると校長の目がキラキラと輝く
「私にもあるかな!?」
ガッと肩を掴まれる
「お?あ,あるが?」
俺は平然とそれを無視して切り分ける
「食べたい!」
わかってるから切り分けてんだろ
「どーぞ」
「頂きます」
俺のショートケーキを食べて校長は嬉しそうに目を細めて
「これは卵を多くしてるね?あとバターも」
「流石,よくお分かりで」
俺の嬉しそうな顔を見て二人は顔を真っ赤にした
何故?
「君うちの嫁に来ないか!?」
お前もか!?
「何故そうになった!?」
「来てよ!」
「お前もお前で何故だ!?」
意味が分からない
俺は溜息をして出て行こうとすると
扉を開けた瞬間生徒であろう人たちが溢れて出来た
「おぉ」
「私たちも食べたいです!」
いやこの学校おかしい!
推薦した理由何故!?
「つーか,お前らのケーキ食わせろ」
俺はそれを確かめたい
第四章 醤油のスイーツ

他の生徒達のスイーツを食べて思ったのは
バターが多いのからチョコをふんだんに使いすぎているのやら何かどっかミスがある
俺は溜息を吐きながらボールをちらりと見た
唖然とした
「テメェら,水で濡れた物で使ってんのか!?」
俺の怒鳴り声にびっくりとしている
「菓子を舐めてんじゃねぇよ!やる気あんのか!」
ギロリと睨む
「良いか!スイーツ要は菓子は水で濡れたのだと不味くなる上分離する!」
俺の説明に奴らはニコニコしている
舐めてんのか………!!!!
「流石だね,合格」
校長がニコニコして俺を抱きしめた
俺はイラついていて睨む
「何が合格だぁ?」
「この子達わざとなんだよ」
わざと?
つまりは
嵌められたと?
「君が私達に勝ったと言うことさ」
生徒達が俺を見つめる
だがな
「ほぉ?だから?」
俺はそうは思わない
「え?嬉しくないのかい?」
校長はキョトンとしてるし生徒達もだ
「俺はここに菓子を作るために来た,それだけだ」
どんと醤油瓶を出す
「黙って見てろや」
器具を乾かし拭いたものにバターを入れる
ふわりと香るものからいいものを仕入れているのだろう
俺は常温に戻している間に薄力粉とアーモンドパウダーを合わせ振るう
バターを溶かし型に少し塗る
大きいボールに卵白を入れ泡立てない様に混ぜた
それに黒糖,蜂蜜を加え混ぜる
工程をきれいに終えていくのを生徒達はうっとりとしていた
「醤油のフィナンシェ,焼き上がるまで待て」
次いでに残ったものは
バターと黒糖,蜂蜜,薄力粉か………
「クッキーだな」
バターは室温だし………
よし
バターに黒糖を加え泡立て器でふんわりとさせるまで混ぜる
蜂蜜,醤油を入れてさらに混ぜあとはクッキーを作る感じにするがさっくりと混ぜる様にしろ
「オーブンの邪魔だ退け」
「はい」
オーブンに生地を入れて温度調節をし焼こうとすると止められる
「凄い」
「あ?」
凄いだ?
「このオーブンの使い方知ってるんですか?」
敬語ウゼェな
「お前,敬語やめろ」
指を指して睨む
ついでにオーブンを動かす
「え?あーよく分かったな」
男はニヤリと笑い頷く
「慣れてる方が分かりやすい」
俺は鼻で笑いオーブンを見つめる
「で?なんで凄いんだ?」
俺の言葉にそいつは困った様にしながら
「これ誰も使おうとしねぇし,使い方分かんねぇから」
と言った
使い方を知らない
つまり
知ろうとしない
じゃねぇの?
と思っていたが
「使い方知らないなら知ろうとしろよ」

ズバッと言うとそいつは苛立ったのか
「へーへー」
と言いつつメモをしているあたりこいつは面白い奴
「フィナンシェは焼けたな」
竹串を指して確認する
カタンと出すとふわりといい香りがした
お腹の音が聞こえる
そいつからだった
「悪いかよ………」
「いや,嬉しいな」
ゆっくり微笑みそいつの頭を撫でる
「食べたきゃ食べな」
俺はこっちに集中したいから
じっと見つめていると音がした
クッキーの割れる音
「出来た」
クッキーを取り出すと案の定割れ目の入った美味しそうな感じに出来た
「クッキーは冷ましてから食べてもいいが熱いのもまた美味しい」
ラッピングして校長とグレイスさんに渡す
「先ほどはすまないね」
「いんや,気にしてねぇし何より楽しい生活になりそうだな」
ニヤッと笑い生徒達を見る
俺は
ここで
強くなって
有名になって
婆ちゃん爺ちゃん兄さん達に会いに行く!
第五章 十二月の和菓子たち

今は十月,秋の時期
俺は外を見ながら溜息を吐く
婆ちゃん爺ちゃん兄さん達に会いたいと
不意に思ってしまうのだ
「たまには和菓子でも作るかな」
と自分の本棚へ向かい本を取る
和菓子の本はこれ一冊しかないが分厚く季節によって分けられている優れもの
「吹き寄せ,錦秋かな」
まず先に
錦秋を作る
白餡三色の生地を丸く押し広げ,三色の中心に白餡を置き包み込む
キツく絞った濡れ布巾で茶巾に絞る
三色が交わる絞り口にするのがポイント
しっかりと絞り形を整える
これで完成だ
「し,次最後」
吹き寄せ
飾り菓子だが飾りつけるためならいいだろう
砂糖と寒梅粉を練り作る干菓子,食紅次第で自由自在に作れる色とりどりのもの
ボールに砂糖とぬるま湯を入れ指先で揉む様に練る
何故ぬるま湯かと言うと砂糖が溶けやすくなるからだ
寒梅粉を少しずつ加え混ぜる
濡れ布巾を被せ二、三十分休ませる
寒梅粉の粘りが出,生地が馴染むまで休ませるのだ
休ませたら生地を揉みなおし滑らかになるまで練る
それぞれ食紅で色をつけて平たく伸ばして境目を指でくっつけて,上からラップを斜めにずらしてかける
綿棒で縦方向に伸ばす
これを二回繰り返しグラデーションをつける
これで型でくり抜く
一日二日乾かして完成
俺は菓子を作った器具を片付けていると
「何でですの!」
と声が聞こえた
俺は何事かすら興味もなく片付けに専念する

こちらに近づいて来る足音
「ここが厨房ですのね!」
バンと音を立てて扉が開かれる
「あ?」
俺の不機嫌そうな声を無視して俺に近付く女
「貴女が神風?」
ニコニコと俺に微笑む女
「だったら何だ」
俺は無視して出て行こうとする

腕を掴まれた
「顔よしスタイルよし貴女!最高ね!」
俺に抱きつく女を引っぺがし睨む
「何の用で来たのか知らないが,邪魔だ」
女は固まり動かなくなる
俺は溜息を吐きながら去ろうとしたが女が泣きそうになったのを見て困った

「お前の用は何だったんだ?」
「和菓子を食べたくて………」
成る程な
ここなら作ってくれると思ったんだろう
馬鹿だな
「ほら,これやるから帰れ」
和紙に包んださっき作られたばかりの錦秋を渡す
女はキラキラとした目で俺を見る
「良いのですの?」
「やるから帰れよ」
それだけ言って去ろうと………出来ない
服を掴まれた
これは逃げられない
俺は渋々椅子に座り女が食べているのを見る
女は嬉しそうに見つめたあと一口食べた
「美味しい」
その顔は
とても綺麗で
女の俺ですら見惚れる

興味ないからすぐそっぽを向いたがな
「貴女!是非来てくださいな!」 
ガタンと音を立てて俺の方に来る女
「何処にだ」
この国の姫はうるさい
「私のパーティーに!」
パーティーだ?
「何故?」
「私のパートナーとして!」
こいつ本当にアホか!?
「俺は女だ!阿保!」
「女?知ってますわよ?」
知ってたんか
俺は溜息を吐き
「行かねぇ」
と即答した
「何故ですの!?」
何故って
「どーせ,専属の菓子職人とでも言うつもりだろ」
「う」
図星か
「そーゆーことなら帰れよ」
「ぅぅ」
「ほらこれ渡してやるから」
俺の手に持つ箱の中には十二月の和菓子達が並んでいた
女は嬉しそうに見つめた後俺を見る
「パーティーぐらいなら校長に言ってみろ,いい返事が来るかもな」
にこっと微笑み手を振る
女は帰り際
「私の名前はアンジェよ!」
と叫んだ
「おー,またな」
俺は冷たくあしらう
「何故そんなに冷たいのかしら!そんなところも好きよ!」
好きか
「おー,ん?」
好き?
おー
友達としてか?
第六章 校長は知る 神風の力を

そろそろ言わねばならないだろう
そう思ったのはつい最近
俺の力の事だ
俺には一つ力がある
それは
今から語ろう
「校長,いるか」
「入っていいよー」
扉の前でノックをし,入ろうとしたが少し怖くて止まる
だが
俺はそんなことに負けたくねぇ
俺が中に入るとグレイスさんも居た
「校長,俺について話そうと思う」
校長はキョトンとした後真剣な顔をする
分かったのだろう
「俺は宝石姫の孫だ」
宝石姫
それは
宝石の全てを操れる,創り出せる
世界にとって喉から手が出るほどの美しい力だ
俺はその人の孫であり力を純粋に受け継いでいる
兄達も辛うじて受け継いでいるため珍しい現象だ
つまり
俺の婆ちゃんが宝石姫だ
爺ちゃんは炎海王だ
爺ちゃんの力は兄達が受け継いでいる
俺は婆ちゃんの方が強い
「そうか」
校長は一言呟くばかりで静かな時が流れる
「そんな俺でも」
俺は
ここで
「居てもいいのか?」
俺は
怖い
「神風」
ピクリと身体が揺れる
「はい」
だが
俺の目は好調を捉えたまま
「よく言ってくれたね,待っていたよ」
待っていたよ?
何故?
「私は知っているよ,君のことを」
なぜなら
「私はお婆ちゃんに助けられたからね」
助けられた?
婆ちゃんに?
「君が幼い時も知っている,だからと言って来て欲しかったわけじゃなく君のお菓子があまりにも綺麗で繊細で私の学校に来て欲しいと思ったからだよ」
ポンと俺の頭を撫でて抱き締められる
俺は涙をとても止められないそうにない
「で?君はここに残るかい?」
「当たり前だ!」
俺は
ここで
強くなって
有名になるんだ
そしたら
婆ちゃん達に会いに行く
俺は宝石の力を持つ化け物だ
だけど
お菓子に対しては真剣に努力している
それを誇りに思っていんだ
「生徒達も知ってるよ」
は?
「なぜなら」
おう
「そこにいるからね」
「あ,察し」
俺は扉を引くと
初めて来たときの様に生徒達が流れ込んできた
俺は声を出して笑った
それを見て赤くなる生徒達
「やはり嫁に来てくれ!」
「何故そうなる!」
俺は
何故か
狙われるんだが?
何故?
「さて,宝石の力少し見せてやるよ」
俺はにこっと笑い掌を上に向ける
ピキピキと音を立てて色とりどりの宝石の柱が出来上がった
それはキラキラと輝くだけでなく見る所によって色が変わる
「すげぇ」
「綺麗」
「美しい」
俺の力を褒めたやつが俺からしたらびっくりだ
これを見たやつは
大抵
化物という
俺は悲しい顔をしたがやっぱりバレてしまった
「俺はカシュラ,宜しく」
「ん?この前のやつか,宜しくな」
握手をすると同時に引き寄せられる
「!?」
「俺,お前のこと狙うから」
狙う?
俺の技をか!?
「上等,やれるもんならやってみな」
俺は誤解しながらそういうとカシュラは笑って頷いた
俺の力を受け入れてくれた
それが俺にとっての救いだった
嬉しかった
なんてな