自転車を押す麻木蓮、の隣を歩く私。
2キロの帰り道。
駅までは少し遠い。

「麻木くんって何部なの?」

私は気になってたことを口にする。

「部活?美術部ー」
「美術?」
「うん、美術」

麻木蓮は目線を適当なところに向けて答える。

「絵、好きなの?」
「いや?別に?」

キョトンとした顔をして私を見てきた。

「じゃあなんで・・・」

私も見返す。

「んー、・・・友達とみんなでワイワイやりたいから」

白い歯が覗く。

「そんな理由かよ」
「まーそんなもんだろ」

沈黙。

なんでこの人は私を誘ったんだろう。
マンガ借りてきてあげたから?

野良猫かよく分からないけど、いつもこのへんにいる猫。
つぶれた商店。

私はしかたなくそっちに興味を逸らす。

気持ちのいい空の下。
隣から鼻歌が聴こえてきた。

ああ、なんかCMか何かで聴いたことのある歌だ。

麻木蓮はいつもリラックスしてるというか、力が抜けてるというか。

まさに今歌ってる歌の世界観に生きてるような感じ。

突然鼻歌が終わって「あ」と麻木蓮が発言した。

「ん?」
「誤解解こうと思って。」

麻木蓮の目が私を見る。

「俺、正確に言えばあの子と付き合ってない。」
「ん?」

私は「あの子」を考える。
ああ、あの1年女子か。

「1年の子?」
「そう、実は付き合ってないよ」
「なんでー?短い期間で別れたから?」

少し緩やかな登り坂。
ペースが落ちる。

「告白されて『友達から』って返事して、数日経って『やっぱり付き合うことはできない』って言ってるだけ」

麻木蓮は少し重そうに自転車を押す。

「友達から?」
「そう、いつもそう。何も知らずに振るのは失礼だと思っちゃうから」
「じゃあ前の人も?」

前は先輩と付き合ってた。

「んー、去年の春別れて以来は誰とも付き合ってないな。今まで付き合ったの1人しかいないんだ、俺」

意外だった。

学校中のみんな、付き合っては別れてると思ってる。

「みんな勘違いしてるよ」
「まじかーすげー遊び人じゃん」

ヘラッと笑う。

「あんな二人で廊下歩かれたら勘違いするがな」
「んー、そうなのかなー」

緩々とした答え。

「そのうち私とも噂されるよ」

チラッと隣の麻木蓮を見上げる。

「まー言わせとけばいいよ」

そんな感じか。