後ろのドアから教室を覗くと、すぐここに麻木蓮が座ってることに気付いた。
廊下側の一番後ろが彼の席らしい。

「ちょっと」

軽く肩を叩く。

麻木蓮は少し驚いて振り向く。

「え、なに?どした?」
「鍵、持ってるでしょ」

「ああ、そうだそうだ」と彼は笑う。

「ごめんごめん」そう言いながら私の手のひらに鍵を落とした。

「それとさ」と、私と麻木蓮の声が重なる。
と、同時に「いいよ、先にどうぞ」という声も重なった。

私が先に言う。

「ブラックジャック、貸し出しカードちょうだい。盗んだことになっちゃうから。」

麻木蓮は「忘れてた」と言って急いでブラックジャックの裏表紙から貸し出しカードを抜き取る。
そして私に渡す。

「じゃあさ、これ戻すついでにブラックジャック3巻まで借りてきてくんない?」

ケロリとした表情。

「ああ、いいけど」
「放課後でいいや、放課後受け取りにいくわ」

受け取りに行くって教室に・・・?

「うん、わかったー」
「よろしくー」
「はーい」

私は鍵と貸し出しカードと依頼を受けて、教室から立ち去った。

なんだろう、不思議な空気感。

初めて話したはずなのに、なんだろう。

階段を降りながら思う。

一瞬で麻木蓮が私の内側に入り込んできたようだった。