後ろ姿しか見えなくて、どんな表情をしているのかまではわからない。


「いつでも自分たちが正しくて、妙な力を持っている魔女や亜人は悪者。本当、この世界は地獄のようだわ」


彼女は振り向いた。


「でも、美しい」


その表情があまりに優しく、僕は泣きそうになった。


「澄んだ青空、綺麗な緑、心地よい風。ここに住んでいたら、この世を憎むことができない。ヒトという小さな生き物のせいで、美しい世界を憎みたくない」


彼女は、ヒトが嫌いなのだということが伝わってくる。
でも、彼女の話を聞いていたら、自分のしてきたことが間違っていたような気がしてきた。


「もう、ヒトの命令に従わなくてもいいのかな……」
「当たり前よ。ローはローとして生きるために生まれてきたのよ。ヒトに使われるためじゃないわ」


その力強い言葉に、目頭が熱くなる。


だけど僕は、今まで誰かのために生きてきた。
今さら自分のために生きろと言われても、どうすればいいのかわからない。


「僕は……誰かのためじゃないと、生きられないんだと思う」
「……そう。だったら早くヒトの中に戻ればいいわ」


彼女の声は冷たかった。


違う、そうじゃなくて……


「……ここに、置いてくれないかな」