だけど、彼女は怒るどころか笑いだした。


「そんなこと気にするの?」


僕にとっては、そんなことではない。
遅れると、殴られるほどに怒られていたから。


「ローが一生懸命探してくれたこと、私は知っているわ」


どうして、という疑問はあっという間に消えた。
彼女は、魔女の力を使って僕を見張っていたのだろう。


「初めてこの森に入ってきたにしては、上出来よ。これから慣れていったら嫌でも速くなるんだから、気にしないの」


声色的に、彼女は本当に怒っていないことはわかる。
僕は安心しながら、彼女の言葉を頭の中で繰り返す。


「……これから?」


ドアを開けようとした彼女の動きが止まる。


「ローはずっとここにいるんじゃないの?」
「えっと……」


僕は一時的にここに避難してきただけで、ここに長居するつもりはない。


だけど、彼女の寂しそうな目を見ると、否定できなかった。


「ローは、ヒトが好きなのね」
「……どうだろう」


物のように扱ってくるヒトを、好きだと思ったことはない。
だけど、ヒトに必要とされないと僕のような亜人は生きていけない。


だから、頑張ってきた。
それなのに……


「全く……いつからヒトが偉くなったのかしらね」


彼女は机に草を置くと、窓の外を眺める。