数秒後、悠理の顔が離れていく。
 「っ、何するの悠理!」
 「・・・真紘こそ、何してんの」
 「は・・・?」
 真紘こそ、何してんの?
 何って何が?
 悠理の言ってる意味がよく理解できない。
 「なんで、俺がいない間に他の男に言い寄られてんの・・・」
 「・・・悠理?」
 ポスッ、と私の肩に悠理は額を置いた。
 そして、そのまま喋る。
 顔はよく見えない。
 でも、声も肩も震えている。
 まるで何かに怯えている小さな子供みたいだ。
 「また、俺がいない間に俺から離れていくのかよ・・・?」
 「また?またってどういうこと?」
 「・・・・・・」
 悠理からの返事はない。
 「・・・もしかして、樹里さんのこと?」
 でも、その沈黙が逆に私に答えを教えてしまった。
 悠理の肩がピクッと跳ねた。
 当たりだ。
 「なんで真紘があの人の名前を知ってんの」
 悠理が顔を上げた。
 悠理の目が見える。
 やっぱり、その瞳は揺れていて何かに怯えている。
 「実は、この間偶然樹里さんに会っちゃってね。そこまで詳しい話はしなかったんだけど・・・悠理に謝りたいって言ってた」
 「は・・・?あの人が俺に謝る?」
 「うん」
 また、悠理の目が揺れる。
 でも、そこには怯えの他にもう一色、戸惑いの色が浮かんでいる。
 「悠理、教えて。悠理が何に怯えているのか。何を不安に感じてるのか」
 「・・・・・・」
 「今度は、私が助けたい。悠理が私のことを助けてくれたみたいに」
 「俺が、真紘を?」
 ゆっくり、大きく頷く。
 貴方が、私の醜い過去を知ってなお私を認めてくれたから。
 私の傍にいてくれたから。
 私は救われた。
 私は前に進めた。
 だから、今度は私の番なの。
 私に、悠理を助けさせて。
 私の目を見て、悠理は小さな声で話し始めた。