「・・・うん」
 予想していた。
 そして、千晴くんの苦しくて、辛そうで、切なそうな表情からこのあとに続く言葉も予想できてしまう・・・。
 「・・・フラれちゃった」
 「・・・・・・」
 痛々しい千晴くんにかける言葉が見つからない。
 「真紘には話しておこうと思って。告白すること話してたし」
 「・・・そっか」

【千晴side】
 真紘の優しい柔らかい声に泣きそうになる。
 僕は、棗に想いを伝えた。
 何も伝えないまま後悔して終わるのも嫌だったし。
 
 『好きです。棗のことが』
 『え・・・・・・』
 僕の告白に棗は意外そうに目を見開いていて。
 『・・・ごめん』
 『・・・・・・っ』
 いつもの間延びした口調じゃない棗。
 フラれるとは思っていたけど、たったの三文字で泣き出しそうになってしまった。
 『僕こそ、困らせるようなこと言っちゃって、ごめんね』って、謝ろうと思った僕より、棗のほうが先に喋りだす。
 『その、千晴の気持ちに気づいてあげれなくて、答えることができなくてごめん。正直、まだ千晴が俺のこと恋愛的な意味で好いてくれていたなんて思ってもみなくて、まだ信じきれない部分もある。でも、千晴が冗談でこんなこと言わないのは知ってるし』
 真剣に、僕を傷つけないように言葉を紡いでいく棗。
 『千晴のことをそういうふうに意識して見たことはなくて、千晴の気持ちに答えたいとは思うけど、こんな曖昧なままで付き合うのは千晴に失礼だと思うし。だから、付き合えない』
 『・・・うん』
 僕の目をしっかり見て喋る棗。
 目を逸らしたのは、僕だった。
 泣いてる姿なんて、棗には見られたくなくて。
 辛いし、なんだか水の中にいるみたいで息もしにくくて、失恋の苦痛で全身がバラバラになりそうだ。
 『顔をあげてよ、千晴』
 優しく声をかけてくれるけど、弱い僕はうつむいたまま。
 『・・・・・・』
 『千晴。俺が千晴を振るのは性別は関係ない。むしろ、俺は恋愛に性別なんて関係ないと思ってる』
 『え・・・?』
 思いもよらぬ言葉に顔をあげる。
 『俺は千晴のことが友達として好きだし、付き合うこともできる。でも、自分の気持ちがそんなんで、真剣に告白してきてくれた千晴と付き合うなんて、千晴に失礼だし。だから・・・今は付き合えないけど、千晴を好きになるかもしれない。自分でも都合のいいことだってわかってるけど。でも、もしその時が来て千晴がまだ俺のことを好きだったら、付き合ってほしい。今は、こんな返事しかできないけど。ホントに、自分勝手で、千晴のことも苦しめると思う。・・・こんな俺に告白してくれて、ありがとう。千晴の気持ちは素直に嬉しい』
 『・・・ううん、僕こそありがとう。真剣に話を聞いてくれて』
 僕が棗を好きになったのは間違いじゃなかった。
 本当に・・・この人を好きになって良かった・・・。