いつもよりしょっぱいキス。
 「んぅ・・・、ゆう、んっ!」
 ついばむような、私の唇を弄ぶようなキスに悠理の名前を呼ぶことすらままならなくなる。
 自分の声が、なんだか自分の声じゃないような気がする。
 頭もぼーっとして、思考がまとまらない。
 「っ、はぁ、はぁ」
 「気持ちよかった?」
 いつもよりふわふわした気分。
 それが心地よくて、ポーッとして・・・。
 「うん・・・」
 「素直」
 普段の私なら絶対言わないようなことも、平気で口走る。
 「真紘」
 私の名前を呼びながら、また悠理は甘い、長いキスをする。
 息が苦しくなってきて、酸素を求めて少し口を開くと、その隙間から悠理は自分の舌をいれてくる。
 口内を悠理に支配されている感覚。
 膝がカクカク震えだす。
 悠理が口を離したのと同時に、私はペタンとへたり込む。
 「真紘って、キス弱いよね」
 「・・・・・・」
 悠理が再び距離を詰めた時・・・。
 「おーい!悠理、真紘~?二人でどこにいるんだー?」
 「っ!」
 私の意識は、近づいてくる龍羽の声で強制的に現実に引き戻された。
 反射的に悠理から距離をとる。
 「お、いたいた!・・・どうしたんだ、真紘?顔赤いぞ?熱中症か?大丈夫か?」
 「だだだだ大丈夫だよ!なんでもない!」
 「そうか?無理すんなよ?もうそろそろバーベキューだから戻るぞ!」
 「うん!」
 危なかった・・・。
 心臓がバクバクなっている。
 「・・・ん?悠理、どうした?」
 「龍羽の馬鹿」
 悠理、完全に拗ねていらっしゃる・・・。
 悠理の纏うオーラが、どんどん黒くなっていくよ・・・。
 「呼びに来てやったのにバカはないだろ~?」
 「本当に馬鹿」
 二人は言い争いながら私の先を歩く。
 呼びに来たのが鈍感な龍羽で良かった。
 これが千晴くんならすぐ逃げられるだろうし、一さんなら気まずそうな顔を、香くんなら「何をしているんだ。公衆の面前で」と正座の刑だっただろう。
 でも・・・。
 私はトトトッと小走りに悠理に近づく。
 「悠理」
 「真紘?」
 そのまま振り向いた悠理の顔に自分の顔を近づけた。
 チュ、と短いリップ音が小さく鳴る。
 「え」
 「さっきの仕返し」
 笑顔でそう言うと顔を赤くした悠理を置いて、私は歩き出した。

 「やっぱりバーベキューはうまいよなぁ!」
 「そうだねぇ」