で、土曜日。
 日葵とは駅前で待ち合わせして、合流してから近くの写真展をやってる施設に行くのだ。
 ‥‥‥日葵、おっそ。
 昔から、遅刻癖は治んないなー。
 そんなことを思いながら苦笑する。
 
 「真紘〜!遅れてごめんごめん〜!」
「いいよ、別に。日葵の遅刻癖にはもう慣れたし。それより、今日もまた一段と輝いてますこと」
前半は嫌味、後半は褒め言葉を言う。
 日葵はレースのついたワンピースに、キラッキラの笑顔の頭を乗せている。
 「ありがとう!それじゃあ、早速行こっか!」
「へいへい」
適当に返事して足を動かす。
 
 「ところで、何で真紘はそんな男物のシンプルな格好なの?」
 突然、日葵が私の服装について質問してきた。
 ワンピースの可愛らしい日葵に対して、私の服装は、少し大きいけどお兄ちゃんに借りた黒のTシャツにジーパンという女子力のかけらもない。
 「んー。可愛い赤ずきんちゃんをおっかない狼共から守るためかな」
「何よそれ」
こう見えて日葵は鈍感なところがある。
 今も周りの男達はジロジロと日葵のことをいやらしい目で見てる。
 当の本人はまったくそのことに気づいていない。
 「簡潔に言うと、アンタをナンパから護衛してんの」
「え!?」
ったく、この子は自分が可愛いことは分かっているんだけど、それがどういうことか分かってないんだよなあ。
 実質、無自覚とほぼ一緒なんだよね。
 「だから、日葵はもっと周りの目を‥‥‥」
「あの、お兄さん一人ぃ?」
 私の日葵に言おうとした注意の言葉は、甘ったるい、いやに高い声にかき消された。
 「えー彼女持ち?」
「でも関係ないよねー」
「お姉さんたちと遊ばない?」
見ると、化粧濃すぎの香水臭いギャル三人組が、私を取り囲んでいた。
 これがいわゆる逆ナンってやつか。
 漫画とか、小説とかで読む逆ナンよりも、ずっとしつこくて面倒くさい。
 「すみません、ちょっと通してもらえますか?」
にこやかにどいてとお願いする
「えーヤダ(笑)」
「ねぇねぇ、ちょっとぐらいいいじゃん」
「そう言われても、行きたい場所があるので」
「じゃあお姉さんたちと行こ!」
「いや、そういうことじゃなくて‥‥‥」
あーもう本当にウザい。
 チラッと日葵を見ると、日葵も困ったような顔をしていた。
 「さあ、行くよ!彼女さん、彼氏くんお借りしまーす!」
「え‥‥‥!ち、ちょっと!」
急に腕をグイッと引っ張られる。
 逆ナンってここまで強引なの?
 「離れろy‥‥‥」
「ねぇ、そこのブスたちー」
私の声はまたしても誰かの声にかき消された。
 今日はこんなんばっかか!
 「ブスってうちらのこと!?」
「信じられない!?女子にそんなこと言うなんて!」
「お兄さん困ってるじゃん?そんなこともわかんないの?」
お兄さんじゃなくてお姉さんですけどね!
 心の中で突っ込む。
 ん?これはもしかして助けてくれてるの?
 声のする方を見ると、そこには気怠げな雰囲気を纏ったイケメンがいた。
 うわあ‥‥‥。
 思わず、見惚れてしまいそうだ。
 いや、実際見惚れてるんだけど。
 一方、ギャルはというと、顔を真っ赤にして怒っていた。
 「周りの人ら、アンタらのこと見て引いてるよ?」
イケメンさんのその一言で、周りがざわざわしだす。
 「逆ナンって初めて見た‥‥‥」
「ちょっとしつこすぎない?」
「お兄さんかわいそー」
「マジで引くわ‥‥‥」
周りの反応に、ギャルたちはますます顔を赤くする。
 「〜〜〜っ!!も、もういい!」
 「そうよ!せっかくうちらが声かけてやったのに!」
「最低!女見る目なさすぎ!」
 ギャルは、散々悪態をついて去っていった。
 助かった‥‥‥。
 今日は人生で初めて逆ナンされた記念日だ。
 こんな記念日いらないけど。
 「ありがとうございました」
 お礼を言おうと男の人の方を見ると、その人は、忽然と姿を消していた。
 お礼言いたかったのに‥‥‥。
 不思議な人だったなあ。
 「大変だったね〜。早く行こっか!」
日葵の声で我に返る。
 「うん、行こ」
そう言って手を差し伸べれば、日葵は笑顔でその手を握った。