でも、その子ならわかってくれるんじゃないか、受け止めてくれるんじゃないか。
 そう思えて、僕はその子にカミングアウトしてしまったんだ。

 次の日、教室に行くといつもと雰囲気が違っていた。
 僕が教室に入った瞬間に、ワイワイしていた教室が一気にシーン、と静かになった。
 『え?みんな、どうしたの?』
 僕は戸惑いながらも、黒板に向けて、そこで‥‥‥絶句した。
 黒板には『伏見千晴は男が好き』『気持ち悪い』『異常者』という僕に対しての悪口が乱暴に並べられていた。
 『何、これ‥‥‥』
 僕が皆のほうを振り返ると。
 ーパシッ。
 乾いた音が静かな教室に響いた。
 僕を叩いたのは、転校生と一番仲の良い子だった。
 『アンタ、ホント最低‥‥‥!』
 『え?』
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 『この子は伏見くんのことが好きだったのよ!なのに、身勝手な相談をして、苦しませて‥‥‥!泣かせるなんて、ホントひどい!』
 僕を叩いた子の後ろで、その子は泣いていた。
 僕に向けた怒鳴り声のあと、クラスの女の子から『狂ってる』『気持ち悪い』と、様々な言葉を投げられた。
 男の子達は近づいてもこない。
 僕はショックになって、教室を、学校を飛び出した。
 家の近くの公園で泣いた。
 なんで、なんで、なんで‥‥‥!?
 僕の何がいけないの!?
 それから、僕は女の子が苦手になった。

【真紘side】
 「今は、母親と妹と離れて、父さんと一緒に暮らしてるんだ」
 そう言う千晴くんはなんだか泣き出してしまいそうで。
 「辛かったね」
 私にはそう言うことしか出来なかった。
 「だから、真紘に言うのも怖いんだ。また離れて行っちゃうんじゃないか、異質なものを見るような目で僕を見るんじゃないかって」
 千晴くんの傷は私が想像していたよりも遥かに深くて。
 女嫌いになってしまうのも、無理はないと思った。
 千晴くんは私のほうを見て、悲しそうな顔で、フッ、と笑う。
 「なんで、そんな顔してるの?」
 「え!?どんな顔!?」
 「辛そうな顔」
 仕方がない。
 千晴くんの痛みを想像したら、辛くなってしまう。
 可愛い顔の裏に、深い悲しみを隠していた。
 自分を否定されるなんて、辛いだろう。
 私には、わかる。
 「私は、離れないよ‥‥‥!軽蔑もしない!」
 「ありがとう」
 そう言う千晴くんの笑顔はやっぱり痛々しくて。