将来の夢は小説家だそうで。
 日葵にピッタリだな、と思う。
 ‥‥‥そういえば、当初の目的を忘れていた。
 あまりにも日葵と駿樹さんが喋らなかったせいで、これが二人の為の勉強会だって忘れちゃったじゃん!
 「日葵、数学は私より駿樹さんのほうができるから、駿樹さんに教えてもらいなよ」
 私が日葵に、それとなく喋るきっかけを作ると、今まで無反応だった駿樹さんの肩が少しだけ跳ねた。
 「そっか!駿樹、教えて!」
 一方の日葵は私の助け船に気づいているのか、なんなのか。
 自然に駿樹さんを頼る。
 「わかった」
 そして駿樹さんはそんな返事を返した。
 いい流れだ。
 「ちょっと私、飲み物取ってくるね」
 「ありがとう!」
 私はそう言って、私の部屋を後にした。

 ーコポコポコポコポ。
 そんな音を立ててオレンジジュースがグラスに注がれていく。
 今、両親は二人の共通の友人に会いに行っているのと兄はバイトなので、リビングには誰もいない。
 静かな空間に私がジュースを注ぐ音が響く。
 日葵と駿樹さん、仲直り出来そうだな。
 ほっと一安心する。
 「ねえ」
 「うわあ!」
 ‥‥‥またこれかよ!
 「だから、気配消すなって!」
 後ろから急に声を掛けてきた悠理に噛み付くように言う。
 悠理は忍びなの!?
 心臓に悪いから、気配消さないで欲しいんだけど!
 「‥‥‥オレンジジュース?」
 悠理はそんな私の抗議を華麗にスルーして、私の前にあるコップのなかにある液体について質問する。
 「そうだけど、ダメだった?」
 「別にダメじゃないけど‥‥‥」
 「どうかした?」
 なんか、いつもの悠理より歯切れが悪い。
 心なしか、顔も青ざめて、体も微かに震えている気がする。
 「‥‥‥まだ一つだけジュース注いでないから、リンゴジュースに変えようか?」
 なんとなく、悠理にオレンジジュースを出しちゃいけない気がして、咄嗟に別のジュースの名前を口にする。
 リンゴもダメとか言わないよね?
 なかなか返事をしない悠理を不思議に思って後ろを向こうとすると、肩にポス、と頭を置かれた。
 「何してるの?」
 悠理のフワフワで柔らかい髪が首に当たって、ちょっとくすぐったい。
 「‥‥‥行かないで」
 「え?」
 「どこにも、行かないで」
 そう言った悠理の声は震えていて。
 いつもより儚い感じがして。