「・・・真紘」
 「どうしたの?」
 「俺から一生離れないって約束して」
 縋るような悠理の声。
 「約束する。私は悠理から離れない」
 「本当に?」
 「当たり前じゃん。悠理こそ、一生私の隣にいて」
 「・・・ありがとう」
 私を抱きしめる悠理の手に力がこもる。
 ―――悠理は馬鹿だな。
 私が、悠理から離れていくわけ無いじゃん。
 あなたが逃してくれないんだから。
 逃げられないほど、私を惚れさせてるんだから。
 悠理の体が離れる。
 「・・・悠理」
 「何?」
 「多分、今が渡すタイミングだから。これ」
 樹里さんの名刺を衣装のポケットから取り出す。
 いつでも悠理に渡せるように常に持っていたんだよね。
 「!これ、母さんの・・・?」
 「うん。悠理に謝りたいって、樹里さんが私に預けたの」
 戸惑った様子で、悠理が私の手から名刺を受け取った。
 「悠理は樹里さんのことを恨んでると思う。きっと許せないと思う」
 「・・・・・・」
 「でもね、樹里さんの謝りたいって気持ちも本物だと私は思うんだ。今じゃなくて良い。何年後になっても良い。私から強制することでもない。でも、樹里さんに連絡することで、悠理が一歩前に進めることができるなら樹里さんに連絡してあげたら良いと思う」
 「・・・そっか」
 ボソッと悠理が呟いた。
 「・・・きっと、俺はまだ母さんに直接会えない」
 「うん」
 「でも・・・いつか、会いにいく。俺は母さんに傷つけられたけど、母さんに助けてもらったのも事実だから」
 「それで良いよ。悠理の好きなようにすればいい。私はいつでも、悠理の味方だから。たとえ世界中が悠理の敵になっても私だけは悠理の味方だから」
 「フッ、たとえのスケールが大きすぎ」
 「う、うるさいな!」
 ・・・良かった、いつもの悠理だ。
 「真紘」
 「ん?」
 ―――チュッ。
 触れるだけのキスをして、悠理の顔が離れていく。
 「もう嫌って言っても一生離さないから。覚悟しておいてね」
 「こっちのセリフ。私こそ、悠理のこと離してあげないから」
 自然とまたお互いの距離が縮まっていく。
 窓の外から差し込む光によってできた2つの影が、1つに溶け合った。