イザベラと別れ、一人暮らしをする部屋で、今日の三つの言葉を書こうとペンを取った。そして、イザベラを思い出す。

「あれは、イザベラがオレのためにしてくれたんだよな……」

 そうひとり呟いて、窓の外を見た。

***


「ジャン、あなた、これから10日間、毎日私の部屋に来なさい」

 イザベラが命じた。文字が読めないとオレが言ったら、その答えがそれだった。

「そんな命令しなくても、毎晩、愛しのご主人様に会いに行くよ」

 得意の流し目でそう言えば、イザベラは相も変わらず冷たい顔で答える。

「そういう嘘はいらないのよ」
「それにしたって、なんで10日間? 毎日会えるのに」
「私はあなたを買いましたが、毎日会うことは強制していません」

 カッチカチに固くて真面目な答えが返ってくる。
 オレは小さく肩をすくめた。

「でも、10日間は強制するんだ」
「ええ、最低でも10日間休まず繰り返すと、習慣になりやすいのよ」
「オレが部屋に来るのを習慣にしたいんだ?」

 にやけた顔で冷やかしてみる。
 いつものイザベラなら、怒って否定するはずだ、そう思ったのに今回は違った。