オレの手を握ったイザベラの手を取り返して、小さな体を衝動的に引き寄せた。
 インクにまみれ、汗の匂いが染みついているシャツ。そんなオレの胸にイザベラは躊躇いなく引き寄せられる。

「良い匂いだわ」

 イザベラの声が胸に響いておかしくなる。

 人になっての初めての言葉。貴女に捧げるために大切にしてきた言葉。突き上げてくる胸の痛みが、今ならと喉を押し広げる。

 信じてくれなくても、いいんだ。

「好きです。好きでした、今もまだ」
「ええ」
「許されるなら」
「誰も咎めたりしないわ。神様は慈悲深いはずです」

 イザベラがクスクスと笑った。笑い事なんかじゃないのに。

 オレはイザベラの耳元に唇を押し当てた。

「もっと、ずっと、まだ、貴女を」

 背中に回ったイザベラの手が、オレの薄汚れたシャツを力強く握りしめる。

「好きでいてもいいですか?」

 続きを小さく囁けば、イザベラは小さな声で、私もいいの?と囁いた。