ゆっくりと顔を上げて、今度は真っ直ぐにオレを見つめた。
 ずっと餓えていた。この黒い視線。深く深く何でも包み込んでしまうような奈落の黒。落ちてしまいたいとそう惑わされる、危うい瞳の色。

「……どうしてジャンが?」
「オレの初めての仕事です」

 そう答えると、イザベラはギュウとその本を抱きしめた。

「座って、ジャン」

 初めての日にも腰かけた、ソファーへ腰を掛ける。毎晩物語を呼んでもらった、そのソファーに沈み込む。
 イザベラはローテーブルに本を置き、オレの横におずおずと腰を掛けた。
 そして長い息を吐き出すと、オレを見つめる。

「ありがとう」

 そう言って深々と頭を下げた。

「止めてください。顔を上げてください。お礼を言うのはオレの方だから」

 イザベラは不思議そうにオレを見た。