屋敷のドアを潜れば、そこにセバスチャンが立っていた。

「朝から早いね」

 軽薄に声をかければ、セバスチャンが厚みのある封筒を手渡した。

「なにこれ」
「イザベラ様からだ」
「口止め料? それとも出入り禁止とか?」

 鼻で笑ってしまう。

 だから貴族なんて嫌いだ。何でも金で解決しようとする。

 セバスチャンは頭を振った。

「困ったらここへ相談しにきなさい、とのことだ。イザベラ様は『気の利いたものは何もあげられなかったから、欲しいものを買うように』と。黙って受けれ」

 オレは静かにそれを受け取った。もやもやした気持ちと、この不器用なやり方がイザベラらしいとも思うのだ。

「そしてこちらは『紹介状』だ」

 もう一通渡された白い封筒には、仰々しくリッツォ伯爵家の紋章が箔押しされている。

「『紹介状』?」
「平民になるのなら、仕事を探すことになるだろう? 口入屋へそれを出すように、とイザベラ様からの計らいだ」
「ありがとうございます」

 オレはそれを胸にしまって、静かにリッツォ伯爵家を後にした。