聞きたくなかったセリフ。だけど、彼女ならそう言うと思っていたセリフ。
覚悟をして触れて、触れなければよかっただなんて。
触れなければ、こんなに辛くなかったはずなのに。
痛みと引き換えに、自由を得た。
「オレは、自由?」
「ええ、自由よ」
「だったら、今度は信じてくれる?」
尋ねれば、イザベラは不思議そうな顔でオレを見た。
「オレは本当にイザベラが大切だ。ご主人様じゃなくて、イザベラが。不器用で、でも誠実な、生きにくい貴女が。……だからこのまま、貴女を忘れなくてもいいですか?」
イザベラの黒い瞳に、清らかな雫が盛り上がる。イザベラはその雫を落とさないように、顔を上げたまま笑った。
「ありがとう、ジャン。そして、さようなら」
オレはイザベラの手の甲をきつくきつく吸い上げて、そこに赤々とした印を残し、部屋を出た。