明日はイザベラの二十五の誕生日だ。結局オレは今日まで交わることなく過ごしてきた。
聖女になりたかったイザベラからその可能性を奪うのは、どう考えたって軽率にはできないと思った。自分なりにいろいろと調べてはみた。今の今まで、ギリギリまで、ほかの手段を考えていたのだ。
しかし、できてしまった聖女の印を消す方法も、それを持ったまま伯爵家に残る方法も見つけられないままだった。
イザベラが見つけられないものをオレが見つけられるはずもなかった。
薄暗いイザベラの寝室。
小さな音を立てて巡る、星の運行。ガラスケースにピンで留められた美しい虫たち。ただ見世物にされるために、自由を奪われ晒される、まるでオレたち性奴隷だ。
「残酷だと思う?」
「思います」
「私も思うわ。残酷なのよ、私」
うつむいて、息を詰めるイザベラの黒くつややかな髪は、そのまま夜の空気のようで、甘い匂いが漂ってくる。
イザベラは薄汚れた犬のヌイグルミを抱きかかえ、寝室から出て行った。
オレは大きなため息をつく。やっぱり、オレを受け入れることは無理なのだろうか。だけどもう猶予がない。イザベラが一番に望むもの。それがセシリオとの生活なのだったら。
オレは大きく息を吐き出した。
無理やりにでも叶える。嫌われても、拒絶されても、殴られて暴れられても。
そのために雇われた。オレはそのための奴隷だ。