「オレはそんなこと望んでいません。そもそもご主人様に縛られてすらいない」
そう答えれば、シニョリーア伯爵夫人は呆れたように笑った。
「イザベラらしいというのか……」
「イザベラはそのままではいけないのですか?」
オレは思わず口を挟んだ。
「何を言っているの?」
「聖女にならなくても、仕事は続けられるでしょう。今まで通りこの屋敷で、今まで通りに生きればいい」
「いつかはセシリオが妻を迎えるでしょう。そのときにイザベラの居場所は無くなるわ」
「そうしたら、イザベラ。オレと一緒においでよ」
「何を夢みたいなことを!」
「大きな家は用意できないけど、贅沢はさせてあげられないけれど、でも仕事の邪魔はしない」
イザベラはオレを見て、それはそれは綺麗な笑顔で微笑んだ。
「ジャン、ありがとう。貴方のおかげで気が付いたわ。私、そうね、私、聖女じゃなくてもできることがあるのね」
「そうだよ」
「今と変わらないだけだものね」
オレは力強く頷く。